目       次


・巻頭言  -新興感染症-東北大学加齢医学研究所所長    今野 多助
・研究紹介
(1)ポジトロンCTによる覚醒剤の脳内動態の解析
 東北大学医学部附属病院 薬剤部 水柿 道直
(2)より良い薬物治療法をめざして
 東北大学薬学部衛生化学教室  山 添 康
・学内RI施設だより  反応科学研究所  佐藤 郁子
・トピックス
(1) 予算大幅削減に伴う対応措置について
 予算担当  中村 尚司
(2)研究機関研究員並びにリサーチ・アシスタント (RA) 採用の示達について
 センター長 織原 彦之丞
・共同利用の状況
・センターからのお知らせ
・研究交流
・RI管理メモ
・分野別相談窓口
・人事異動
・CYRIC百科
・編集後記


巻 頭 言  新 興 感 染 症
加齢医学研究所所長 今 野 多 助

  学校給食による食中毒として大阪・堺市で起こった今夏の病原性大腸菌(正しくは, 腸管出血性大腸菌)O-157流行の事件は,世間を騒がせるだけでなく,人々にいつしか忘れかけていた伝染性感染症への恐怖の念を改めて植え付けている。多様な抗生物質の開発と利用,ポリオ・麻疹・百日咳・ジフテリア・破傷風などに対するワクチンの開発と普及,さらには衛生環境の改善などにより,重篤な感染症は,すでに本邦では克服されたと考えている人が多い。この様な背景から,本邦の感染症の基礎的研究者は減少している。文部省が「O-157」関連の研究者を国内で調査した所,阪大・本田教授の他少数に過ぎなかったという。他の感染症についても事情は同様なのが現状ではないだろうか。 しかし,地球的に目を転ずれば, 恐ろしい病気を起こす細菌やウイルスが,新たに,あるいは姿を変えて出現している。エイズ原因ウイルスのHIV,アフリカ・ザイールなどで流行している出血熱の原因・エボラウイルス,英国で騒ぎを起こしている狂牛病の原因・プリオン,エイズ患者間に広がる薬剤抵抗性結核菌などがその一部としてあげられる。これらの感染症は,新興感染症 (Emerging Infections) と呼ばれ、それらに対する予防策などが公衆衛生学的に重要な課題となっている。
  米国のゴア副大統領は,今日の地球上の人々の健康にとって新興感染症ほどの脅威はないとし,それらに対する防衛は国家安全保障のうちであるという認識を示している (ASM News 62: 448, 96)。さらに,次のエイズやエボラウイルスが来てドアをノックするまで座って待っているわけにいかないと述べ,21世紀に向かって総合的戦略が必要であると強調している。そして注目されることは,新興感染症の脅威から米国や世界を防衛するための米国の役割を強化するガイドラインを次のように示している。 即ち,地球的監視体系の確立,保健医療従事者の研究と訓練の強化,官民の強いパートナーシップ, WHOなどの国際的機関との協力などである。これらの戦略は医学的のみならず経済的意味をなしており, それぞれに多額の財政的裏付けが示されている。   この様な米国の政治家のスタンスに比べると, 我が国のそれはどうだろうか。
O-157事件でみていると,それを新興感染症としてとらえ,その防衛体制を国内で,あるいは地球規模でどうするかということについての政治家や政府高官の発言は全く聞かれない。国民の健康に対する国の安全保障を訝かざるを得ない。  国は科学技術基本計画を作り,その中で,生活者のニーズに対応し,健康の増進や疾病の予防・克服の課題の解決に資する研究開発を推進すると謳っている。また国際交流の促進も強調されている。その様な視点で有効な健康防衛施策が推進されることを願う。