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巻頭言

東北大学工学部 原子核工学科  井 上   泰

・研究紹介   

サイクロトロンを利用した放射化分析 東北大学理学部附属

原子核理学研究施設桝 本 和 義

心肺疾患へのサイクロトロンの応用

東北大学医学部附属病院 第一内科  加賀谷 豊, 菊池 善博 石出 信正,白土 邦男

・学内RI施設だより    遺伝生態研究センター金野弘記, 佐藤 孜
・新しい機器の紹介
東北大学の3次元ポジトロン CT の現状
糖分析装置
・共同利用の状況
・平成8年度概算要求について CYRIC  織 原 彦之丞
・センターからのお知らせ
・研究交流
・RI管理メモ
・人事異動
・新電話番号案内
・CYRIC百科
・編集後記


巻 頭 言


東北大学工学部原子核工学科 井 上   泰 


 放射線利用は原子炉による熱エネルギー利用と並んで原子力利用の双璧の一つであるこのうち医学利用は特に進歩が著しい領域であるは従来このような状況を知識として知るのみであったが最近図らずも自ら実感することとなったすなわち病気のため長期間の入院加療を余儀無くされたがその際1人の患者に対して放射線を用いる検査が実に多くの種目にわたって行われており放射線が医療の分野で大変大きな役割を果たしていることを身をもって実感した以下この実感に基づいてとりとめもなく考えたことを述べてみたい 検査は安全で患者に苦痛と侵襲を与えることなく低廉に行い得ることが必要であるが放射線検査は低廉とは言えないものの晩発性の放射線障害発生の恐れがあることを除くと他の条件は殆ど満たされており患者に何等苦痛を感じさせることなく実施できるこれら検査技術の進歩には目覚ましいものがあるもののこの高度な技術を駆使して得られたデータが必ずしも完全には生かされていないのではないかあるいは検査種目が未だ不十分なのではないか等の疑問が残るところであるかなりの時間と費用をかけて種々の検査を実施した挙句闖pにより取り出した組織の検査に診断が委ねられ た例を少なからず見聞するところである更なる検査法の改良と工夫が望まれる次第である 放射線治療についてみるとは広島や長崎の被爆者の写真の印象から大線量の照射を受けるとたとえ局部的な照射でも皮膚が糜爛し体毛が抜け落ちるのではないかとの恐れを抱いており蛛B医からγ線照射をすると宣言された時には正直なところ怖気をふるったものであるしかしこれは大きな誤解でありタ際には60グレイのγ線照射でも照射野が局限されている限りその部位のみに紅斑や脱毛が生じる程度で大きな全身症状は起こらないことが分かった良くコリメートされた多数のγ線束を1点に集中させて治療するγナイフによると脳に発生した小さな転位癌を副作用なしに破壊できるのはこのためであろう費用が高価なことを除くと理想に近い治療法と言うことができよう今後もこれに劣らない治療法の開発が期待される 放射線による検査にしろ治療にしろ今後益々高度化されて行くであろうがそれにつれて益々高価なものになって行くことが予想されるこのようになると折角の技術を広く社会に還元し普及させることが困難になり極く少数の人にしかその福音を分かつことが出来ないようになりかねないこのような意 味からたとえば粒子加速器で代表されるような複雑かつ高価で1国に数える程しか設置できない放射線源を用いる方法ではたとえ抜群の治療効果があるとしても実際的に有用な治療法になるとは言えないであろう昔日の Ra 針に代表される RI 線源のように簡便な線源を今一度見直しこれをこれまでに研いた新しい技術の皮袋に入れ研究を進めるのも今後の方向の1つではなかろうかその多目的利用の一環として放射線の医学利用を標榜している本センターではこのような観点からの放射線を用いる新しい検査法や治療法の開発研究はあり得ないものだろうかと夢うつつのうちに考えている次第である

(井上 泰教授は11月23日御逝去なされました。ここに謹んで御冥福をお祈りいたします)